昨日、新入社員の歓迎会があった。週末を避けた飲み会は終わりが早いうえに金曜日の予定が空くのでありがたい。
 高橋くんのいうとおり、私にとっても待ちわびた週末だった。
 なのに、終業直後にスマホにメッセージが入った。

『悪い。今日は部の飲み会だって。新入社員の歓迎会。終わりが見えないから今日はやめとく?』

 岸さんからだった。岸さんの部屋で夕飯を食べてそのまま泊まっていくことになっていた。
 終わって連絡くれたら行く、と返事をしようとして思いとどまった。
 会う約束を取りつけたなら、岸さんは飲み会が終わったら迎えにいくって言うだろう。車にせよバイクにせよ、岸さんは宴会でお酒が飲めなくなる。そうさせてしまうのは申し訳ない。

『わかりました。見送りってことで了解です。今、設計部にいますか? ちょっと席外せます?』

 岸さんに廊下まで出てきてもらった。
 メッセージを飛ばすなり駆けつけた私は、資料室が空いていたのを確かめる。岸さんをなかに押しこみ、後ろ手にドアを閉めた。

「飲み会の話、なんでそんな急なんですか」

「昨日、俺がいないときに話が回ってきたみたいなんだ」

 一緒にいた新入社員くんには事前に話があったらしく、知っていたとか。
 ここで岸さんを責めても仕方がなかった。
 急に決まる飲み会だってある。
 つきあいで断れない場合もある。
 なんの予告もしないで岸さんに抱きつき、離れた。一秒くらいだったと思う。

「充電完了」

「もういいんだ?」 

 おもしろそうに岸さんが目を瞬かせる。

「燃費いいの、私」

 平気だとばかりに笑ってみせる。
 こういうときに岸さんは私に迫るようなことはしない。会社ではしないと決めているふうだった。
 反対に、私とプライベートでふたりのときは際限なく愛情を示してくれる。
 今思ったんだな、というタイミングで好きだと伝えてくる。
 線の引きかたがきっちりしていて、そんな岸さんをなるほどと思っていつも見ている。