少し沈黙があった。

『俺はつきあってるつもりだったんだけど、もしかして名取さんって、つきあおうって言われるまで認めない派の人だったのかな、と思って。だとしたら、不安にさせてたかなって』

 それで電話してみた、と岸さんは穏やかな声で言った。
 顔が見えなくてもどかしい。少なくとも怒ってはいないようだけれど。

「あの、不安ではなかったです」

『うん。一緒にいるときはそんなふうには見えなかった』

「本当にただの冗談なので」

 だとしても、きっかけには違いないから言うよ、と電話口の岸さんは口調を改めた。

『名取さんが好きです。俺とつきあってください』

「岸さん……」

『返事は?』

 はい、と答えた。
 大人だから言える、と岸さんがイブの夜に言っていたのは本当だった。 朝まで一緒だったけれど、会いたいと思ってしまった。