「そうなんだ」

 これまで宏臣とのことをたくさん聞いてもらっていたから、平気なものだと思っていた。
 そもそも岸さんが私に気があるなんて、そのときの私は考えもしなかった。
 どうやって折り合いをつけていたんだろう。

 涼しい顔で聞き役に徹してきた岸さんと、今、私の横で嫉妬なんて単語を繰りだした岸さんが結びつかない。
 そう言うと、岸さんは微かに苦笑いをした。

「嫉妬を表に出したら、君の相談役の座を降りることになる。相談役がいなくなったら、名取さんは参ってしまうかと思って。陰ながら支えようと気持ちは殺してた。なんで俺ばっかりこんな話してる?」

「だって聞きたいし」

 お天気はよくて、小腹は満たされて、隣では好きな人が私を想ってきたと伝えてくれる。
 これ以上のことはない。最高だ。


 私の頬が緩んでいるのを、岸さんはしげしげと見つめる。

「あの男にばったり出くわしたあとでも、案外、平気そうだね」

「岸さんにいっぱい愛されちゃったんで」

「それはいいことを聞いた」

「言っときますけど今のは変な意味じゃなく……」

「次は手加減なしでやってみよう」

 岸さんは自分に都合のいいところで話を切りあげ、空になったたこ焼きの袋を持っていってしまった。