「呆然としてたな」

「驚きすぎですよね、失礼な」

 池の畔のベンチで露店のたこ焼きを食べながら、岸さんと私は一息ついた。水面に鴨が浮いている。丸太の橋の上から親子連れが鯉に餌をやっているのも見える。平和だ。

「名取さんを取られたと思ったんだよ」

「あいつの物だったときなんて一瞬たりともありませんでしたけどね」

「本当に?」

 口のなかはあつあつのたこ焼きでいっぱいだった。そんなときに言われてもなにも答えられない。

「心は奪われていただろ」

 当惑する。そうだったとしても今は違うんだし、過去を持ち出されても今更どうしようもない。

「岸さん、どうしたの?」

 岸さんはしばらく黙っていた。私も黙って待つことにした。
 そしたら思いがけない言葉が岸さんの口から飛びだした。

「嫉妬してる」