「恥ずかしくて壊れそう」

 私は岸さんの鎖骨のあたりに顔を埋めた。
 捕まったままの利き手が離してもらえない。
 覆い被さるように緩く抱きしめられた。 

「大丈夫?」

 耳の近くで囁かれた。かろうじて頷く。

「私が相手でもどきどきするんだね」

「なに」

「岸さんの心臓。すごい音してる。……私もだけど」

 息を抜くように笑った気配があった。けど確かめるまもなくキスがはじまって、止まらなくて、止める気も起きなくて、頭の中がぼんやりしてきた。
 そうこうしているうちに横抱きでベッドに運ばれた。

 絶対に起こりえないことが起こっている。
 これが人生のハイライト、私今日死ぬんじゃないかと、思った。

 私でいいの? 相手、間違ってないの? 
 さっきの心臓の音を疑うわけじゃないけどーーこの期に及んでまだそんなことを考える私を見透かすように、岸さんが静かに言った。

「名取さんのこと、大切にする。好きだよ」

 なにか言おうとしたけどうまくいかなかった。代わりに涙がこぼれた。