「長いバージョンと短いバージョン、どっちがいい?」

 仕事が終わり、岸さんと車で一緒に帰る流れから食事に連れていってもらった。
 そうして店を出て、今は車内だ。いつかドライブで連れてきてもらった丘の上にいる。
 さすがに寒いから車外には出ていない。助手席からでも星がよく見えた。

「大きいつづらと小さいつづらみたい。じゃあ、大きいほうで」

「長いほうね」

 少し時間を置き、岸さんは静かに語りはじめ……るのかと思いきや。

「名取さんが好きだよ」

 いきなりそんなことを言った。

「え……」

「君といるときだけ勝手が狂う。そばであれこれしてあげたくなる。はじめは年下だからだと思っていた」

 岸さんは三十歳だという。今いくつ、と聞かれて私は二十四だと答えた。

「やっぱり関わったことのない世代だな」

「変ですか? そんなに珍しくもないのでは」

「自分にとってという意味だよ。それに、年下だからどうというのは第一印象じゃない。前にも話したが、俺は名取さんが描く仕事を見ている。そっちが第一印象だ。描いたものでは年なんかわかりっこない。それでも目を注ぎたくなるなにかがあった。丁寧で、意思を持って描いているのがわかった。最初から惹かれてた」