会社の年内最終日は午前中だけ業務にあてることになっていた。
手元にあるのは柄の多い訪問着だった。
仕上げられる範囲だけやろうと、使う色を絞りこんで描いていたら、事務机のほうから中断の指示がきた。設計部から電話があったようだ。
「もう塗ってしまった?」
「白と白ぼかしだけ塗りはじめてます」
「そこはだいじょうぶだって。設計部が新しい図面を持ってくるって」
「わかりました」
手元の図面はそのまま残しておくと紛らわしいので、×を入れてから廃棄することになっている。
間違って古いほうの図面通りに塗ってしまったらまずいからだ。
そういうルールではあるけれど、それでも設計部が一番いい配色だと一度は思って作り上げた図面にダメ出しをするようで、躊躇いがある。
この反物の設計者は岸さんだった。
鉛筆片手にまごまごしていたら、背後から声を掛けられた。いたのは岸さんで新しい図面をくれた。
「えっ。あ、早っ」
でも今受け取ると新旧の図面が混ざってしまう。古いほうの図面にすばやくさりげなく×を書いた。
設計者本人の前でこれをやることになるなんで、気まずいことこの上ない。
しかも昨日のこともある。
手元にあるのは柄の多い訪問着だった。
仕上げられる範囲だけやろうと、使う色を絞りこんで描いていたら、事務机のほうから中断の指示がきた。設計部から電話があったようだ。
「もう塗ってしまった?」
「白と白ぼかしだけ塗りはじめてます」
「そこはだいじょうぶだって。設計部が新しい図面を持ってくるって」
「わかりました」
手元の図面はそのまま残しておくと紛らわしいので、×を入れてから廃棄することになっている。
間違って古いほうの図面通りに塗ってしまったらまずいからだ。
そういうルールではあるけれど、それでも設計部が一番いい配色だと一度は思って作り上げた図面にダメ出しをするようで、躊躇いがある。
この反物の設計者は岸さんだった。
鉛筆片手にまごまごしていたら、背後から声を掛けられた。いたのは岸さんで新しい図面をくれた。
「えっ。あ、早っ」
でも今受け取ると新旧の図面が混ざってしまう。古いほうの図面にすばやくさりげなく×を書いた。
設計者本人の前でこれをやることになるなんで、気まずいことこの上ない。
しかも昨日のこともある。