話し合いのできる雰囲気ではなくなってしまった。

「名取に謝れよ」
と、潮崎くんは頑なに宏臣に謝罪を求め、宏臣もまた頑なにそれを聞き流した。冗談だったのに、と小さく言うのが聞こえた。

 なにか言ってやろうと思った。理性では。
 けれども口を開いたら声が震えそうだった。
 せめてもの意地で平静を装った。
 私はこんなことで傷ついたりしない。
 傷つけられたなんて思いたくない。


 潮崎くんに車で送ってもらった。
 家に帰ると玄関にはまだかすかに花の香りが残っていた。岸さんからもらった花束の香りだった。洗面所のバケツに入れたままになっている。

 岸さんからこの花束をプレゼントされたとき、嬉しかった。
 私は大事にされていると感じた。
 あの人といるといつもそうだ。

 なのに今日の宏臣ときたら、私を見下すようなことばかりで……。
 力ずくで迫られた感触が蘇り、身震いした。
 自分より格下だから、なにをやっても許されると思った?
 冗談だと言えば私が笑うとでも……?