そんな様子の彼女を見た先生は、少しだけ哀しそうな表情で笑って、言った。


「・・・ごめんね。もう少しで救急車が来ると思うから」


・・・って。

それだけ言って、カーテンを閉めた。


あの人は一体何に大して謝ったのか。

この子は何にこんなに怯えてるのか。


そして救急車を呼ぶって、そんなに重症?



"大人が嫌いだし"



長瀬の言葉を思い出して一瞬納得しかけたけど

・・・この反応、絶対、嫌いの域を越えてるじゃん。



「・・・大丈夫?」

「・・・へーき・・・っ」

「平気じゃ・・・無いでしょ。落ち着いて、大丈夫だから」


白石凜が、見えない何かと闘っているのが分かった。


見た限り何も平気じゃないし、何も分からない俺が居ても出来ることなんて無くて、・・・長瀬は何を思って俺をここに置いていったんだろう。


まぁ帰っても良いんだろうけど・・・

ここまで来た俺は、しっかり自分の意思で。


倒れてるこの子を見て、声をかけたところから・・・俺の中で何かが変わっていたんだと思う。



「きぃくん・・・」

「・・・大丈夫だから、泣かないで」

「・・・ん・・・」

「うん。・・・寝てな」



出逢ったばかりの俺に頼るしかないほど、何かに追い詰められているのか。


まぁ・・・ここには俺しか居ないんだけど。消去法で俺なのか。なるほど。


・・・例えそうだとしても、こうして俺の名前を呼んで

俺の手に触れて、安心したような表情を見せるのは



君も 何か を感じていたからだってことを、俺はまだ知らなかった。