そろそろ駅が見えて来た時だった。
「あれ、玲奈さんじゃないですか」
一度だけ聞いたことのある、あの女の人の声が私の名前を呼ぶ。
「あなたは……」
「もう、近づかないでって言ってるのに」
その人は、隣にレオくんがいるのにもかかわらず、不気味な笑顔でそう言ってきた。
その人の目は、私だけを捉えている。
「返してよ」
その言葉と同時に、その人の腕が空中へと上がり私を目掛けて下される。
瞬時に目を瞑る。
だけど、その腕が私に当たることはない。
恐る恐る目を開けると、レオさんがその腕を掴んで見たことのない鋭い目で彼女を睨んでいた。
「何、してんの? ていうか、誰?」
「あっ」
その人は、今更レオさんに気付いたのかパッとした表情で彼を見つめている。
「玲奈さんに嫌がらせするなら、許さないよ。女の人であっても」
「ご、ごめんなさい。もうしないですから、許してください」
急に捨てられた子犬のように縮こまって、その目からは涙を流している。
「もう、玲奈さんの前に現れないでくれる? 俺、君の顔覚えてるからね」
「もう、現れないです…………」
その言葉を聞くと、レオさんはその腕をようやく離した。
「謝ってよ、玲奈さんに」
彼女は私の方を見た。
「ごめんなさい……」
それに、なんて答えればいいのか分からない。
だから「もう、いいです」と一言伝えると、その人は走ってどこかへ行ってしまった。
レオさんの手を見ると、微かに震えていて私はついその手を握ってしまう。
まるで台風の様にいきなりこの空間を搔き乱した彼女がいなくなると、再び2人だけになる。



