「なんか、嫌なことがあると、ここに来ちゃうんですよね」

「そうなんですか」

「この前も話したけど、アンティークって心が落ち着くんです。なんででしょうね、古いものって、何かすごくあたたかいものが込められている気がして。きっと、気のせいでしょうけど」

と、彼女はふふっと笑いながら話しており、その間その視線はずっとカップに向いていた。

そんな彼女の話を将生はコーヒーを音を立てずに飲みながら聞いている。

「分かりますよ、僕も同じことを感じてます。なんでしょうね、アンティークに宿る不思議な魅力ですよね。現代のモノにはない」

「うん、たしかにそうだよな」

と、三人は意見が一致して、だからといってそれについて深く話し合うこともなく、お互いがなんとなくうんうんと話をしたり聞いている時間が過ぎた。

そうして少しの間話していると、外から子供達の声が聞こえてくた。

もう、小学校も授業を終える時間になった。

時計を見ると、16:30。

「もうこんな時間なんですね。私、そろそろ大学に戻らないと」

「そうだね。将生も戻る?」

「だな」

俺は、店長に一言言うと、今日はもう帰っても大丈夫だということだったので、三人揃って店を出た。

外は、程よい気温で風が心地よく、この風をずっと感じていたいと思ってしまう。

この暑くもなく寒くもなく、気軽に外に出られるこの季節、時間帯が俺は好きだ。

きっと、思っているのはこの世界中にごまんといるだろうけれど。

三人で特に話をせずに歩いていると、アンティーク店から少し離れたところで、お喋りをしている近所の奥様がいた。

「こんにちは」

「こんにちは」

その奥様達と会うのは何度目かで、俺は軽く挨拶をした。

2人が会うのはもちろん初めてで、会釈をして通り過ぎる。

自分の生活のテリトリーに二人がいることに対して、俺はなんだか歯痒さを感じた。