店内は、再び三人になった。
しかも、偶然なことにみんな同じ大学で、それを知っているのは俺だけなのだが。
特に何もすることなく、店内を見渡していると、彼女が近づいてきた。
「店員さんは、学生さんですか?」
そう、俺に質問をしてくる。
「はい、近くの芸術系の大学に通ってますよ」
俺は、どこか歯痒くその台詞を話す。
大学名を言えば、彼女にすぐに伝わるのに、どうして俺はこうも回りくどく言ってしまうのだろうか。
「え、もしかして○○芸大ですか?」
すると彼女は、目を丸くしてその大学の名前を言う。
「はい」
「ええ、そうなんですね」
俺たちの会話を聞いていたのだろうか、将生はさりげなく近寄ってくる。
「なんだ、みんな同じ大学なんだ」
そうして将生は、興味のなさそうにぶっきらぼうにその台詞を言って、「ふうん」と一人何かを納得している。
「そうみたいだね。あ、俺はこいつの友人です」
と、俺は、将生を指さして言った。
「そうだったんですか」
彼女は、どこか感心したようにそう言うと、将生の方を見て一礼をした。
そんな彼女に、将生もつられて一礼をする。
同じ大学だということも分かって、なんとなくお互いの壁が薄くなったと感じたころで、俺たちは互いに自己紹介をした。
そうして、ようやく俺は彼女の名前を知ることが出来た。
彼女は、神崎玲奈という名前で、これまた偶然なことに、みんな同じ学年だった。
すると、タイミングよく店長が出てきて外のプレートをcloseへと変える。
恐らく、俺たちの会話はすべて店長に吹き抜けだったのだろう、気を利かせてくれて、店長は俺たち3人を奥のスペースへと招いてくれた。
「立ち話もなんじゃし、今日はここでコーヒーでも飲みながら話してはどうじゃ。帰るときは一言かけてもらえば、おーけーじゃよ」
俺は、そんな店長の立ち振る舞いを見て、流石だなと一人感じていた。



