「ごゆっくり、どうぞ」

そんな彼女に、俺は店員として接すると、二人とも特に何事もなかったのように、互いに思うまま店内をうろつき始めた。

今日大学で見た新たな情報のせいで、自分だけが一方的に少しだけ相手のことを知っていると思うと、なんだか変な気分がしたが、俺はいつも通りの表情を崩さずに店の中にいることに専念した。

しかしやはりふと彼女の姿を見ると、そのことを思い出してしまうもので、いっそのこと「同じ大学なんですね。さっき偶々校内で見かけて」とでも言ってしまった方がすっきりとしそうだ。

「今日は平日なのにいつもよりも賑わっていて嬉しいのお」

店長は俺のところに来ると、ひっそりとそう話しかけてくる。

平日のこの時間はいつもは一人が帰ると一人が来るといった感じで、二人が同時にこうしていることは珍しい。

そもそもこの店は、修復を専門としていてるせいもあるのだが。

「そうですね」

店長は、それを言うと「ほっほっ」とまるでおとぎ話に出てくるおじいさんのような笑い方をして裏の修復部屋へと姿を消した。