「あ、いや、その…………うん、そっか。もし玲奈が僕が好きになったらいつでも恋人として歓迎するよ」
冗談っぽく言う翼くんに、私も
「その時は、よろしくお願いします」
と、冗談を込めてそう返事をした。
「さあ、コンクールに向けて頑張らないとね。あ、あとさ、同学年なんだから、敬語なんて要らないよ」
「あ、うん」
「友達、なんだからさ」
翼くんは照れながら言う。
彼がそう言ってくれたことに、私は感動して熱いものが心の底から湧き上げてくる。
「うん、そうだよね」
新たな気持ちで出す音は、きっといつもとは違う音として翼くんの耳に入るのだろうか。
翼くんには、私の音はどんな風に聴こえるのだろ。
その音を、ぜひ好きになってほしい。
「ちょっと指慣らししていいかな?」
「もちろん」
聴こえて来た彼の音は、確かにいつもと違って春の訪れの時に聴きたくなるような、そんな明るい音だった。
ああ、これなんだ、翼くんが言っているのは。
「そう言えば、彼からこれ、貰ったんだよ」
彼は鞄から小さなグランドピアノを出した。
「可愛い」
「彼ってさ、不思議な人だよね。玲奈が惚れるのも分かるよ」
「え、翼くん……もしかして」
「いや、それはないから」
「そうだよね」
冗談を言い合えるなんて、昨日までの私は考えていなかった。
もっと、色んな人と話がしたい、色んな世界が見たい、そう思った。



