住宅街の一角に、ヨーロッパの建物を思わせる家が一軒。
その扉には、openと書いてあるプレートがぶら下がっている。

深い緑の瞳、少し高い鼻に、通った鼻筋。
東洋よりは西洋、西洋よりは東洋の顔立ちの男の人が、店の中を歩いていた。

「いらっしゃいませ」

男、工藤レオは入ってきた人に挨拶をした。
それはいつもと変わらずに、マニュアル通りの声の高さ、話すスピードだ。

「あ、こんにちは」

その人は、細い声であいさつを返す。

店の中に入ってきたのは、自分と同じくらいの歳の女の人。
背は程よい高さで、細いという印象を受ける。

「なにか、お探しでしょうか?」

俺は、決まった台詞を言う。

「とくに、探してるものはないんですけど……いいですか?」

「はい、ごゆっくり」

このやりとりももう何度目だろうか。
ここに来る人は、大抵そう言う。
アンティークを見て、満足そうに帰っていくんだ。
だから、彼女のこともそんなお客の一人だと見ていた。








数日後、また彼女が来た。

「いらっしゃいませ」

「こんにちは」

この前来た時よりも、若干声が大きくなっているような気がする。

「アンティーク、お好きなんですか?」

つい、同世代の彼女に話しかけてしまう。
彼女は、嬉しそうにこっちを見た。
そして、はい、と首を縦に振った。

「いいですよね、なんだか、落ち着くんですよ、アンティークの雑貨に囲まれていると」

「来たいときは、ぜひ来てください。遠慮しないで」