「あのね……お母さん」

『でも良かったわ~本当に。お父さんも心配していたのよ?
岐阜には、療養のつもりで行かせたけど
お祖母ちゃんには、ちゃんとお礼を言っておくのよ?
東京に帰ったら遅れた分の勉強を頑張らないと
家庭教師をつけた方がいいかしらねぇ~」

一方的に話す母に私は、余計に口に出せなかった。
帰りたくない……って。
心配してくれた母に迷惑をかけたくないのもあるが
肝心な時に何も言えなくなる自分。
ここで小心者の悪い癖が出てしまった。

結局何も言えないまま電話を切った。
両親は、私の帰りを待っている。
岐阜には、夏休みまでだと言われていたし……。
どうしよう……どうしよう。

「菜乃ちゃん……どうしたんだい?」

「お祖母ちゃん……」

私は、涙いっぱいになった。
祖母は、何かに気づいたのか私を抱き締めてくれた。
そのあたたかいぬくもりに余計に涙が溢れて
泣き続けた。事情は、落ち着いた時に祖母に話した。
うんうんと優しく聞いてくれる。

「そうだったの。いいのよ?
菜乃ちゃんの好きなようにしても。
お祖母ちゃんは、菜乃ちゃんの味方だから
あなたが決めたことに賛成するわ」

祖母は、あたたかく受け入れてくれた。
でもお父さんもお母さんさんも帰ってくるものだと
思っている……きっと言ったら反対する。
無理やり連れ戻されたらどうしよう。
すると祖母は、私の頭を優しく撫でてくれた。

「言うことに怖がらないで。
あなたは、あなたの思うままにしてていいの。
子供なんだからいっぱいワガママを言って
いっぱい学びなさい。
大人になったら出来ないことも今の菜乃ちゃんなら
出来ることもあるんだから」

お祖母ちゃん……。

優しい祖母の言葉に私は、涙がいつの間にか
引っ込んでいた。いっぱいワガママを言って
いっぱい学びなさいか……。
私が今出来ることは、何だろうか?
それを探し出すために私は、どうしたらいいのだろうか?

自分でも分からずにその日は、過ごした。
だが悩んでも明日は、やってくる。
バイトの日になってしまう。気まずい……。
昨日翔馬君と微妙な終わり方をしちゃったから