翔馬君のことを話していた。
珍しいものを見たような目だった。
女子高生の子達は、翔馬君に対してそんな風に
思っているんだ。

可哀想……?私は、そんな風に思ったことが
一度もなかったから驚いてしまった。
だって翔馬君や美紀子さん達を見ていて
明るくあたたかい雰囲気に可哀想という言葉が
似合わないからだ。

何だかモヤモヤした気持ちになりながら戻ると
翔馬君は、ショーケースからケーキを取り出していた。
美紀子さんは、紅茶を淹れていた。
あ、手伝わないと……。

「あ、私も手伝います!」

「じゃあ、ココアをやってくれる?
大さじ2杯ね。温かいミルクは、今温めているから」

「は、はい。」

私は、急いで美紀子さんの隣に行くと
ココアパウダーの袋を取り出してカップに入れた。
気づくと震えていた手は、自然と止まっていた。
落ち着いたのかも知れない。
するとショーケースからケーキを出し終わった
翔馬君は、私のところに来た。

「菜乃。最初は、上手く出来ないかもしれないが
少しずつ接客を出来るようになればいいからな」

「う、うん……ごめんなさい」

本当は、それだとダメだと自分でも分かっていた。
イジメのことが頭にフラッシュバックして
上手く接するどころか話しかけることも
まともに出来なかった。情けなくて……悲しくて。
頑張って克服したいのに……。
ココアパウダーの袋を思わずギュッと握り締める。

「菜乃が頑張っているのは、知っている。
俺達は、ちゃんと見ているから
お前は、お前のペースでやればいい。無理だけはするな」

翔馬君は、思いがけない言葉を私にかけてくれた。
お前は、お前のペース……。
その言葉1つ1つは、衝撃であり胸があたたかくなった。

いいの……?
私のペースで……?

「で、でも……迷惑になるし……」