ここで質問です。
目の前に。
すんごく可愛い女の子がいたら…どうしますか?
……俺?
戸惑いますよ、そりゃあ。
だって……
鏡に映った自分なんですよ。
あぁ、別に自惚れてるわけじゃないんです。
むしろ、嘆いてます。
“女装した”自分がこともあろうか……それなりの美人だったから。
「なんか…泣きそう……」
「泣いちゃダメだよぉ?メイク落ちちゃう!」
真顔でそう言うの、やめていただけますか?莉央さん…
俺はもう一度鏡に映った美女を眺めて…ため息をついた。
「…髪、邪魔」
「あに…兄貴っ!?」
漆黒のロングストレートヘアでパッチリした目が印象的な色白美人が、俺の目の前に立っていた。
大人っぽく、白いシャツに赤いチェックのネクタイ。そして、黒いフリフリのついたミニスカート。
まさに【大人の女】って感じ。
……兄貴、だよな?兄貴…姉貴?あれ?
「恭介…血迷うなよ?」
「もちろん」
……兄貴です。間違いなく兄貴です。俺の尊敬する偉大なる兄です。
「100万、取れるの?」
兄貴はもう、賞金のことしか頭にないらしい。
「コンテストで優勝したらねっ!現役のモデルさんもいっぱいいるから、難しいかもしれないよ?それにコンテストだから、笑顔振りまかなきゃ♪」
そう言って、アイドルさながらの笑顔を手本がわりに見せる莉央さん。
男、落とせるよ?今の笑顔。
「笑顔、ね」
笑顔を振りまく。それは兄貴にとって最も困難な作業。
弟の俺ですら、兄貴の笑顔は希少価値が高い。
つまり、この依頼……
俺もだけど、兄貴には性に合わない。


