あたしよりも背の高い八嶋クンに見下ろされている格好。
いつもきっちりと締められているネクタイが少し緩んでいて。

「足、くじいていて、またバランスを崩すかもしれないのに?」

『こういうの・・・恥ずかしいから。』

「わかりました。じゃあ、席が空いたら座りましょう。」


ようやく身体を離してくれた八嶋クン。
それでも、手を伸ばせばすぐに届く距離で。
やっぱりいつもの爽やかな彼とはかけ離れたその様子に息が詰まりそうになった。

それだけでなく、
大丈夫と言っておきながら
電車の小刻みな揺れが更にくじいた足首に響いて
顔を歪めずにはいられないぐらい
ズキズキと脈を打つような痛みが増してきた。


「高島先生、席、空きましたよ。座りましょう。」

“次は曳馬です。お出口は左側です。”

あたしの様子を気遣ってくれているらしい八嶋クンの声に車内アナウンスが重なる。


『ありがと。でもあたし、次、降りるから、このまま立ってる。』

「そうですね。移動するよりもそのままのほうがいいかもしれませんね。」

『八嶋クンは座って。確か上島で降りるんでしょ?まだ先だし。』


あたしよりも後に降りる八嶋クンに席に座るように促した。
それなのに全く動く気配なし。



「いえ、僕もこのままでいいです。」

『でも・・・』

「ほら、もうすぐ駅、着きますよ。」

『それじゃ、また来週。お疲れ様。』


あたしは仕方なく、立ったままでいる八嶋クンに手を振りながら、開いたドアから降りようとした。


『うっ!!!!』

けれども、力の入らない左足首。
右足で踏ん張り、ドアの敷居を跨ごうとした時、

「ほら、やっぱり大丈夫じゃない。」

『八嶋クン、今の終電だったんじゃ・・・』

八嶋クンに左肩を抱えられながらあたしは電車を降りた。