「話し聞いていい?」

「うん、慎也私の事好きっていってくれてるけど、私慎也とは付き合えない」

「うん」

 おそらく予想していたんだろう、冷静にそのまま話を促してくれる。

 自分の手が冷たくなっていくのが分かる。
 何度も、何度も、リアルに思い浮かぶシーン。

「慎也、知っているかもしれないけど、
 大学の時付き合っている人がいて、この人と結婚するんだって思ってた、
 
 でも、その人他にも付き合っている人がいて、
 その人、大学の先輩で言い争いになったの、
 すると、付き合ってた彼、先輩を庇って、私悪者になって、
 しかも後で、知人から3股だったって知らされショックで、
 
 もう、誰も信じられないし、恋が怖くなった。
 信じられない一番は自分で、まだ駄目で、
 友人からいいかげん忘れたらって言われても、
 全然忘れられなくて、ごめん」
 
 一気に言い切って、口をつぐむ。
 
 店で流れている音楽と、他の客の話声が、
 大げさなくらい耳に入ってくる。