社長の溺愛にとかされて

コーヒーが運ばれてきて「ありがとうございます」と礼をする。

砂糖とミルクを入れ、一口、口に含むも、
すぐにカップをソーサーに戻してしまった。

なんとなく、日本庭園を眺める。

小さな川があり、小橋が3つほどかかっている。

合間を縫うように植えられた紅葉が、
丁度紅葉で紅く色づき、庭園を鮮やかにしていた。

毎日手入れされているのだろう、落ち葉も最小限で、
汚い枯れ葉などが積もっている事はない。

綺麗な庭のはずなのに、慎也の事が頭に一杯で、庭を堪能できない。

時間だけが刻々と過ぎてゆく、30分・・1時間・・・・

自分でも自分の行動が分からない、
家で掃除して、雑誌読んで、好きな事して過ごしたらいいはずなのに。

どうしてこんな事、しているんだろう・・・・

そうしてふとロビー側を見ると、慎也らしき人を見つけた。

(慎也!)

思わず叫びそうになって、あわてて言葉を飲みこむ。

慎也の後に、華やかな振袖の女性が、目に飛び込んできたのだ、
2人は仲睦まじそうに、幸せそうな笑顔を浮かべ、話している。
あの女性が彩さんなのだろうか?

そのあとすぐに、恰幅のいい年配の男性と、
上品な着物を着た女性が現れた。
おそらく、彩さんのご両親だろう。

本当にお見合いなの?

パニックになって、悲しんでいるのか、怒っているのかも分からない、
ただ、嘘だよね?という言葉だけが、頭をぐるぐる回る。