「みーき!先生に怒られてやんの」


「いや、怒られてはないし」



HRが終わると直ぐに後ろから抱きついてきたのは、中学からの付き合いのある玲奈。

ミルクティー色のボブカットの髪がよく似合っている。

ずっと中学から同じクラスでかれこれ付き合いは5年目。腐れ縁ってやつ。



「美希はこの後、美術室?」


「うん、そう」


「いい加減、描いてる絵見せてよー。コンテストに出すんでしょー?」


「いつかねー」


何となくはぐらかして、カバンを手にとる。



「玲奈は?帰るの?」


「うん、帰る。今日、デートしてくの」



玲奈には男子校に通う1つ年下の彼氏がいる。
合コンで玲奈が一目惚れしたのだとか…。


「ふーん、楽しんでー。また明日ー」

「うん!じゃね!」


教室を出て、4階にある美術室に向かう。


2年の教室は2階にあるから、4階まで上がるのは疲れる。


「…はぁ」


やっと階段を上りきり、1番端にある美術室の建付けの悪いドアを開ける。


むわっとした空気に微かな絵の具の匂い。

美術室の木の椅子と机。

壁に飾られた数枚の絵。



カバンを机に置き、空気を入れ替えるために窓を全て全開にする。


少し湿っぽい風が入ってきた。



美術準備室の窓も開ける。
準備室の方は色々ごちゃごちゃしていて
空気が悪いし、暗いし、
いくら掃除してもホコリも溜まる。



準備室の隅に置かれたイーゼルに目を向ける。

イーゼルに立てかけられたキャンバスは真っ白。

今は5月上旬。

7月末が締切だから、
もう構図を完成させ絵に取り掛かってもいいはずだが…。




「なにも、浮かばないな…」




イーゼルとキャンバスを美術室に運ぶ。

前は簡単に絵が描けていたのに、
今はなにも描けない。



「はぁ、どうしよーか…」




いわば、スランプ状態。



机に仰向けになって、天井を見つめ手を伸ばす。



描きたいのだけれど、今のままじゃ納得するものが描けない。



玲奈から描いてる絵見せて、と言われても今描いたものじゃとても見せられるものではない。



「…はぁ」




こんな自分に嫌々する。






私から絵を取ったら、なにも残らないのに…。