先輩と私と美術室




建付けの悪い扉を開け、足を踏み入れる。


先輩は前と同じように窓を開け、外廊下の柵に寄りかかっていた。



「絵、何描くか決まった?」


「いえ、まだ…」


カバンを机に置き、準備室からキャンバスとイーゼルを取り出す。



「じゃ、今日もお話できるんだ?」


笑ってそんなこと言うもんだからそうしようかなぁなんて思ってしまう。

まぁ、どんなに考えたところでイメージが出てくるわけでもないんだけれど。




「…まあ、はい」


「ここおいでよ。風、気持ちいいよ」


先輩が指さした先は先輩の隣。

こんな所を女子に見られたりしたら噂になって女子の先輩方に呼び出されそう…。


おずおずと先輩の隣に並んだ。



ここから見える体育館近くの水道。

バスケ部が頭から水を浴びてるのが見えた。


「先輩は部活いいんですか?」


「いつも頑張ってるから今日くらいはいいの」


「サボりですか」


「サボりだね」



「あー、柏木先輩サボりですかー!」


水を浴びていたバスケ部の1人がこちらに気づいたようで、指さして叫んだ。


タイミングが良くて笑ってしまった。


「おい、瞬!彼女と逢い引きのためにサボりかよー!」


先輩は何も言わずに手をひらひらさせて、無視を決め込んだ。



「嘘だろ、あいつに彼女できたのかよ…」


先輩が否定も肯定もしないものだからそんな声が聞こえた。



しばらく不満の声が聞こえていたけど、体育館内の「集合!」の呼び声で走って体育館に行ってしまった。



「彼女って誤解されたらどうするんですか」



「別におれは気にしないよ」


「私が気にします。女子の目が痛いのは勘弁です」


そう抗議すれば「ははっ」と笑った。



「後であいつらの誤解は解いとくよ」


「…そうしてください」



自分が言っておいて、すこし寂しさが横切ったけど知らないフリをした。