自分がこの世界の人間ではないと気付いた時は別段に驚くことではなかった。薄々そうではないかくらいには常々思っていたのだから。
 普通の人間では有り得ない身体能力に加えて、人目を引かずにはいられない容姿も、自分がこの世界の人間ではないと、断言できる要因になっていた。
 鏡の前に移る自分の姿はやはり明らかに他の人とは異なっている。肩まで伸びる透けるような紺碧の髪に左右異なる瞳の黄金と深紅。人の身ではなしえないのがこれだけならよかったが、加えて容貌もそれであった。この世に存在してはいけない美を彼はもって生まれてしまった。
 不意に思考に沈んでいた自分の肩に手が置かれた。白くほっそりとした綺麗な手の持ち主に彼は目を向けた。
「もう! いつまで自分の顔見てるの、由良。見なくても十分過ぎるほど綺麗ですよーだ」
 小顔を少し膨らませ不満そうにしているが、毎朝のことなので特に気にせず由良は膨らませた頬を人差し指で押した。フシュー、と薄い桜色の小さな唇から息が漏れる。何を思ったのか、頭一つ分小さい彼女が薄らと頬を赤に染め恥じらいながらも由良の人差し指を掴んで自分の唇にあてがった。目は秋波の熱いものが帯びている。
「朝からするのか、柚燐」
 空いた手の方で柚燐の腰まである艶やかな黒髪を手で梳きながら優しく微笑み由良が訊いた。顔が顔なだけに冷たい微笑みのように由良が一見みえるが、長い付き合いの柚燐にとっては本当に優しい微笑みだとわかっていた。それに、愛しい人の微笑みが自分に向けられるのが何より嬉しかった。
「どうする? 学校まで後二時間あるけど、柚燐はしたい?」
 由良のこの言葉に柚燐は顔を真っ赤にして俯いた。お互いパジャマを一枚着ているだけで、それを脱げば下着一枚になる。そう思うと更に耳まで赤く染めた柚燐は身体が異常に火照るのを感じた。このまま愛しい男性に身を委ねたい心が膨れ上がりかけて、ふと昨夜の事を思い出して、なんとか抑えて踏み止まった。そう、昨夜に既に熱くお互いの身体を重ねたことを。昨夜に続いて今朝も相手の身体を求めていては淫魔ではないかと、ふしだらではないかと、柚燐は自制した。