職員室に鍵を返しに行くと、さっきの諸田先生が疲れた様子で座っていた。
私に気が付くと、片手をあげて合図しドアのところまで行く。

「おう。さっきは悪かったな。
 藤田を追っかけてたんだ。
 あいつはやらかしが多くてな」

そんなことを言いながら、サクサクと鍵の返却作業をしてくれる。
先ほどはびっくりしたけど、今は普段の気のいい諸田先生に戻っていた。

「藤田君、何をしたんですか?」

私は気になって尋ねてみる。
先生は気まずそうな顔をして、

「最近、藤田にいやな噂が立っててな。
 それについて聞きたいんだが、藤田がつかまらないんだよ。
 咎めたい、とかじゃなくてな、聞きたいだけなんだよ。
 見かけたら、あいつに伝えといてくれないか」

「ええ、あんまり親しくないですが」

これから、アイスは食べに行きますが、
諸田先生は、すまなそうな顔をした。

「頼むな。よし、これで返却終了だ。
 顧問の佐藤先生には伝えとくからな
 気を付けて帰れよ」

先生に鍵を渡す。

「ありがとうございました。」

先生は、そのまま自分の机に戻った。
また、疲れたような、憔悴したような顔をし始めた。
さすがに、少し心が痛んだ。


私は、静かに職員室を出た。
昇降口に向かいながら、考える。
さすがに藤田に噂について聞く勇気はなかった。
本当に、校門前で待っているのだろうか。
アイス、おごってくれるんだよね。
親しくない、クラスメイト、男子というだけで少し緊張する。
無難に、早く、帰りたいな。