部屋は薄暗くライトがついていた。
 窓際には窓があり、葵羽がカーテンを開けて、彩華を手招きした。すると、そこには綺麗な街の夜景が広がっていた。少し都心部から離れているため、遠くに見えるのがまた星たちが輝いているようだった。


 「綺麗ですね………」
 「君にこれを見せたかったんだ。以前、仕事でここに泊まったことがあってね。とても良かったから」
 「そうだったんですね」 


 彩華は窓に手をついて、その夜景を眺めた。ひんやりとした感覚が手のひらに伝わってくる。彩華の火照った体には気持ちよかった。


 「さっきはごめんね。………頬が赤くなって、とろんとしている瞳を見たら、我慢出来なくなってしまいました」
 「………恋人なんですから、我慢しなくてもいいんですよ?」
 「でも、今日は我慢します」
 「え?」
 「お酒を飲んでいる彩華さんに手は出しません」
 「…………我慢しなくていいんです、と言っても?」
 「…………そうです」


 何でですか?と、聞こうとした口は彼の唇で塞がれてしまう。
 確かに今でもふらふらとしるし、気持ちが高ぶり、体がふわふわしている。だからと言って彼とそうなってもいいという思いが嘘ではない。
 彼にもっと強く抱きしめて欲しい、もっと彼を知りたい。
 そう思っているのに、彼は何故か求めてくれない。

 こうやってホテルに2人というシチュエーションで期待してしまうのは当たり前ではないのか。そう思っても、彼のキスは先程より深くないいつもの短いキスを繰り返すだけだった。


 「葵羽さん………」
 「………突然ここに連れてきてごめんね。…………キスして抱きしめるから、朝まで一緒に過ごしてください、ね?」
 「…………はい」


 嬉しいはずなのに、どうして切ないのだろうか。
 彼はどうして自分を求めてくれないのか。
 大切にしてくれているとは感じるのに、葵羽のものにしてくれない。

 それは何故?


 彼に抱きしめられながら、彩華はぼーっとする頭でそんな風に思っていた。