葵羽はそのままお会計を済ませた後。
 彩華の手を取って、エレベーターに向かった。
 最上階のレストラン。エレベーターに乗れば、後はただ下へと向かうはずだった。

 ポンッと、エレベーターが到着した事を告げる音が優しく廊下に響いた。
 葵羽の腕を掴んだまま、エレベーターに乗った。扉が閉まった瞬間、彩華の視界が突然暗くなった。そして、唇に何かが触れそして、口の中がぬるりとして、体がすぐにビクッと震えた。彼にキスをされている。今までされた事のないような深いキスに、彩華はくぐもった声を上げた。彼の言葉さえも食べられているような感覚だった。静かなエレベーターに水音と吐息が聞こえた。彼の腕も強く握りしめようとした時だった。

 ポンッとまた、エレベーターが鳴った。
 もう1階に着いたのだと思い、2人は唇を離した。葵羽の顔をちらりと見ると、彼はペロリと舌で唇を舐め、妖艶な瞳でこちらを見て微笑んでいた。彩華は体が震えるのを感じた。それはきっと彼の色気を感じて体が反応してしまったからだとわかり、彩華は全身が熱くなっていくのを感じた。


 「ぇ………」


 葵羽の手を引かれて降りると、そこにはエントランスにあったクリスマスツリーはなかった。
 代わりに、ふかふかの絨毯が引かれた廊下があり、沢山の部屋の扉が並んでいたのだ。
 葵羽が降りたのは、このホテルの宿泊部屋のフロアだった。

 彩華はドクンッと自分の胸が鳴ったのがわかる。お酒を飲んでいるからではない。そんな事はわかっている。
 これから起こる事を理解しているからだ。


 一番奥の部屋のドアに彼がカードキーをかざすと、青いランプが光り、カチャンッと音が鳴った。そして、部屋の扉が開くと葵羽は「どうぞ」と、まるで自分の部屋に招き入れるように言った。
 この部屋に入るか、入らないか。
 彩華の手を離した葵羽に、自分で決めると言わんばかりに彼が聞いたように思えた。

 彩華は酔っているからなのか、心の中でそうしたいと願っていたからかはわからない。
 迷うことなく、その部屋へと足を踏み入れたのだった。

 パタンッとドアが閉まると、葵羽は「ありがとう」と言って、ニッコリと微笑んでいた。