「彩華さん?………やはり怒ってますか?」
 「いえ………そうではなく。その…………」
 「あ、もしかして体調が悪いんですか?」
 「違うんです………そのスーツを着ているの、珍しいな、と思いまして…………」
 「あぁ………」


 彩華はまた葵羽が一瞬、戸惑い表情が固まったのがわかった。
 彼が何か話したくない事なのだろうとわかった。けれど、葵羽は視線を少し逸らしながら、その問いかけには答えてくれた。


 「神主以外にも仕事をしていまして、今日はそちらだったので」
 「お仕事ですか?……それは何の………?」
 「それは秘密です」
 「え………」
 「彩華さんの手作りの料理がまた食べられるなんて嬉しいです。作っていただき、ありがとうございます」
 「あ、いえ………温め直してくるので、待っていていてください」


 彩華は動揺を隠すために小走りでキッチンに逃げ込んだ。
 コンロの火を付けて、鍋の料理を温める。グツグツと気泡が出てくるのを、彩華は呆然と見つめた。


 他の仕事?秘密?

 どうして話してくれなかったのか?
 何故答えてくれないのか?
 ………自分は彼の恋人ではなかったのか?

 恋人とは、一体何なのか。
 彩華はしばらくの間、ただただ疑問に思いキッチンで1人考えてしまった。