「葵羽さん、本当にすごいですね。とっても綺麗な音です」
 「電子ピアノ大切にしているんですね。とても綺麗ですし、音も澄んでいる」
 「………大学の頃一目惚れをしたピアノだったんです。木目が美しくて、温かみを感じたんです。高かったんですが、バイトをして買いました。………それに、弾いているとピアノが喜んでいるのがわかるし」
 「うん。それはよくわかりますね」


 葵羽は目を細くて笑みを浮かべた。
 その後も夜のドビュッシーのピアノコンサートは続いた。
 2人だけのコンサートは、今まで参加したどの
コンサートよりも、綺麗に優しくて、そして楽しい時間だった。




 5.6曲弾いた辺りで、葵羽はちらりと部屋の時計を見た。それにつられるように彩華もそちらを見ると、もう日付が変わるまで1時間ぐらいになっていた。


 「そろそろ帰りますね。女性の部屋にこんな遅くまでいるのはダメですね」
 「あ、あの………あと1曲だけ………ダメですか?」


 彩華は彼に甘えてしまう。
 こんなにも楽しい時間がもうすぐに終わってしまうのだ。
 すると、葵羽は椅子に座ったまま彩華を見上げて、「今日は積極的ですね」と、言った。
 そして、その後何かを思い付いたのか、何か葵羽は微笑んだ。