「おうちに飾るのであれば、好きな色で選ぶのもありですよ。その方が愛着もわくかもしれません」
 「そうですね。では……春っぽいお色のブーケにします。いろいろ教えてくださり、ありがとうございました。お会計、お願いしてもいいですか?」


 そう言って、彩華は財布を取り出した。
 すると、その男は恥ずかしそうに彩華を見た。


 「実は俺、ここの店員じゃないんです………」
 「え……?」
 「あ、この店の常連みたいなもので。花にはそこそこ詳しい、花好きな男ってだけで……すみません。今、お店の人呼んできますね」


 と、彼が店の奥に行こうとすると、奥からエプロンをした女性が小走りでやってきた。


 「あ、蛍くん!来てたんだね」
 「こんにちは。それと、花霞さん、お客さんですよ」
 「ごめんなさい!お待たせしました。そちらのブーケですね」


 そう言うと、その女性は彩花からブーケと代金を受け取り、レジへと向かった。
 蛍と呼ばれた男はそんな様子をニコニコとしながら見ていた。


 「あの、ありがとうございました」
 「いえ。………実はあのミニブーケ、俺が作ったんです」
 「え………そうなんですか?すごい……あんな綺麗なブーケが作れるなんて……」
 「自分のブーケが売れるのを見るのが初めてだったので、嬉しいです。選んでくれて、ありがとう」
 「………いえ」


 彼の表情が花がほころぶような笑顔になり、彩華は思わずドキッと胸が高鳴り、ほんのり頬も赤くなってしまった。


 「時々、僕の作品を置いてもらっているので、また遊びに来て探してみてください」
 「………はい」
 「あの、名前を聞いてもいいですか?」
 「………はい………」
 「俺は、ほたると書いて蛍(けい)。君は?」
 「彩華です。彩りに華やかです」
 「彩華さん……また、会えるといいですね」


 そう言って、小さく手を挙げると蛍はゆっくりと店を出ていった。
 彩華はその後ろ姿から目が離せなくなり、ドアが閉まるまで彼を見送った。



 蛍という男性が作ったブーケは、彩華の部屋の窓際に置かれた。小さな花瓶に入れて、彼に教わったように花の手入れをした。

 そして、その可憐な花を見るだけで蛍の事を思い出した。


 「また、会えるかな………」


 そんな期待を胸にそう呟くと心が温かくなり自然と笑顔になれた。

 花と蛍によって、彩華は少しだけ心が軽くなったのを感じた。



              (おしまい)