寒いはずなのに、彩華の体温はぐんぐん熱くなっていく。それは先ほどのキスのせいもあるだろう。けれど、それとは別に要因があった。祈夜の視線だった。先ほどまでは、意地悪なニヤついた笑みがみられたけれど、今はとても真剣な表情で、一心不乱に鉛筆を動かしてデッサンをしていた。彼に声を掛けるのが申し訳ないぐらいに集中しているのだ。
 少し鋭い視線で彩華の全身を見つめられると、全てを隙間なく見られているようで恥ずかしくなってしまう。
 彼は描くことに没頭しているのに、彩華は先ほどのキスの余韻に浸っていると思うと、一人だけ淫らだなと感じてしまい、ますます頬が赤くなる。

 けれど、それもしばらくすると落ち着いてきた。彩華は彼が絵を描く姿をまじまじと見ることが出来るのだと気がついたのだ。
 何度も彩華を見ては、スケッチブックに視線を落とし鉛筆を持ち、しばらく経つとまた彩華をじっと見据える。
 その表情はとても真剣で、今まで見てきた彼のどの表情とも違っていた。
 真剣な中にもイキイキとした楽しさを感じられたのだ。


 そんな彼の姿を見れ、彩華は微笑みを我慢できずにうっすらと笑ってしまった。
 恋人に裸を見られているはずで、恥ずかしくて死にそうだったのに、今では穏やかに笑っているから不思議だ。


 そんな彩華の表情に気づいたのか、祈夜は少し驚いた表情を見せた後、先程より早く鉛筆を動かし始めた。


 何かいいものでも描けたのだろうか。
 そんな事を思いながら、体が痛くなりつつも、彼が動かす鉛筆の音を聞き、彩華は彼の思って祈夜を見つめたのだった。