「駅からここまで来れば安心だろけど………お前どうすんの?タクシーで家帰るのか?」
 「え、あ…………どうしよう」
 「………電車待つならこの先に俺の店あるから行くか?飯でも出す」

 
 そう言ってまた彩華の返事を聞かず、黒髪の男は仏頂面のまま彩華の手を掴んだ。


 「あ、あのっ………」
 「………なんだよ。行きたくないのか?」
 「いえ………先ほどは助けていただき、ありがとうございました」


 彩華は年下であろう目の前の男に小さく頭を下げて、そうお礼を言った。
 酔っぱらいの男達から、自分を助けてくれたのは事実なので、彩華はお礼を言わなければならないと思ったのだ。
 
 そんな彩華を見て、黒髪の男は目を大きくした後呆れた顔でひきつったように笑った。


 「なんでそうなんだよ………俺だって同じようなもんかもしれないだろ?ただの店のキャッチかもしれないとか…………」
 「そ、そうか………」


 彩華は言われてから、確かにそうだなと思っていて、今度は自分が驚いた顔をしてしまった。
 確かに彩華は助けを求めていたわけではないし、見ず知らずの男性に手を握られるのは、そういう目的もあるのだろう。
 けれど、目の前の彼が手を握って勝手に自分を連れ回しても、彩華は不思議と嫌な気持ちにならなかったのだった。

 そんな呆けた表情を見て、黒髪の男は大きくため息をついた。
 そして、「まぁ、いいわ。………行くんだろ?」と再度問い掛けられたので、彩華は頷くと、彼は彩華の腕を引いたままドンドン歩いていく。

 彩華は不思議な縁を感じながら、ゆっくりと歩く彼の背中を見つめながら歩いていった。