彩華は何冊が漫画本を選び、ホットコーヒーを持って自分の個室に戻ろうとした。フッと視界に入ったのは、オープンスペースで漫画を読んでいる人たちだった。パソコンを使わないで漫画や雑誌だけをみる人は、オープンスペースで見ることが出来るようだった。
 そこに、大量の漫画本をテーブルに置き、夢中になって読んでいる人の横顔に目が留まった。幼さが残るけれど、その瞳は真剣そのもので、大人っぽさも感じられる。少し長めでふわふわの髪は、何故か猫のように感じられた。瞳は少しつり上がっており、まるで黒ねこみたいだと思ってしまう。

 彩華はゆっくりと近づくけれど、その男性は全くこちらに気づかないようだった。集中しているのに申し訳ないと思いつつも、久しぶりに会えたので、彩華は止めることが出来なかった。


 「祈夜………くん?」
 「っっ!!」


 偶然同じネットカフェに居たのは、恋人である祈夜だった。突然声を掛けられて驚いたのか、体を大きく震わせた。

 そして、咄嗟に立ち上がり彩華を見た。


 「あっ、彩華………おまえ、どうしてこんな所に………」
 「家のパソコンが壊れちゃって仕事が出来なくて………偶然だね。祈夜くんは、何してたの?」
 「え、あ……それは………」


 祈夜は読んでいた本を咄嗟に自分の背中に隠した。彩華は不思議に思いながら、テーブルの上の漫画本を見た。


 「あぁ………それは………」
 「………少女漫画………?」


 祈夜の目の前には大量の少女漫画が置かれていたのだ。その言葉をもらした彩華を見て、祈夜は顔を真っ赤にしたまま固まってしまったのだった。