月夜の店での一件があったあの日以来、祈夜となかなか会えない日々が続いた。
 それまでは彼が時間を作ってくれたり、職場近くまで迎えに来てくれたりしていたので、彼との時間が沢山あった。けれど、今は会ったとしても夕御飯を一緒に食べるだけで、その後はすぐに帰宅してしまうのだ。理由は祈夜が仕事で忙しいからだ。

 クリスマスの予定を聞いてからというものの、彩華が月夜に連絡しても「悪い、忙しいから」と言って、焦った様子で電話を切ったり、メッセージの返事を返したりしてきたのだ。
 突然の態度の変化に、彩華は焦るしか出来なかった。不安になって彼の家に行こうとも考えたけれど、忙しいと言っているのに突然家に押し掛けるのも悪いなと思っていたのだ。


 今までのやり取りを思い出すだけで、彩華は大きなため息をもう一度落としてしまう。

 すると、茉莉は慰めるように「大丈夫じゃない?」と言ってくれる。


 「今まで話しを聞く限り、祈夜くんってマメだし、彩華の事大好きだと思うから。本当に忙しいんじゃないかな。彩華だって年末なんだから忙しいでしょ?」
 「………そうだけど………」
 「彩華は忙しい時に「遊んで~」とか。かまって」って言われたら嬉しい?」
 「嬉しいけど………少し困ったりするかな………持ち帰りの仕事もあったりすると、会えても仕事しなきゃいけないし……」
 「そういう事だよ。社会人でしっかり仕事している人なら余裕なくなるぐらいに忙しくなる事ってあるの、彩華も知ってるでしょ?しかも、祈夜くんは年齢的にまだ社会人になったばっかりだと思うし………」
 「…………」
 「さっきも言ったみたいに、少し余裕を持って彼を待ってあげてもいいんじゃない?クリスマスは残念だけど……年末まで、我慢して、それでもダメなら話してみるとか」