「こ、こんばんは………」


 まだ、「closed」と書かれた看板がドアかかっていたが、彩華はゆっくりとドアを開ける。控えめだがドアのベルがカラカラと鳴った。カウンターで食器を拭いていた祈夜が音に気づいて顔を上げる。彩華と目が合うと、少し恥ずかしそうにはにかみながら「久しぶり」と迎えてくれた。

 彩華はいつものカウンターに座ると、「寒かっただろ?」とすぐにホットコーヒーを淹れてくれる。「それ飲んで待ってて、今シチュー作ってたんだ」と、彼は奥の調理場へと行ってしまう。
 一人になり、彩華はコーヒーにミルクを入れて一口飲む。すると、寒かった体の中にコーヒーが巡っていくのがわかった。
 そして、フーッと一息をつく。まだ3回目のこの場所。けれど、彩華にとっては落ち着ける空間になっていた。初めはあんなに緊張したのが嘘のようだった。

 会ったばかりなのに、彼には心を許してしまっている。そんな自分に驚きながらも、もうここからは抜け出せない。そんな予感がしていた。

 祈夜が作ってくれた豆乳のクリームスープをカウンターに並んで食べる。他愛ない話しをしたり、少し無言になったり。そんな時間さえも心地よかった。
 その後ホットカクテルのホットバタードラムという飲み物を貰った。そのお酒はとてもラム酒にバターを溶かして飲むそのカクテルは、シナモンの香りがして、彩華はとても好きな味だった。とても美味しくて興奮して「おいしいよ!祈夜くん」と言うと、祈夜は子どもに言うように、「また作ってやるから落ち着け」と笑った。

 そのたった1杯のお酒で酔ってしまったのか。久しぶりの甘い雰囲気で緊張してしまったのか。頬が赤くなり、眠くなってしまったかのように、彩華の瞳はとろんとしてしまった。
 そんな彩華を見て、祈夜ははーっと大きなため息をついた。