収穫祭は終わる頃、辺りは暗くなり、人も疎らになった。
 葵羽と少しだけでも話せるかなと思っていたけれど、忙しそうにしているため、そっと帰ろうとした。

 その時、神社の本殿の横にある緋色原っぱのスペースが目に入った。
 何故か、夜にトンボが飛んでいたのだ。
 そういえば、夜にトンボが飛んでいる事はないな。と、思い彩華は誘われるようにそちらへ向かった。
 いつもは、保育園の子ども達と遊んでいる場所。子ども達の笑い声が耐えない場所だが、今はがらんとしており、外灯もないため真っ暗だった。ここだけが街から切り離された空間のように、彩華は感じてしまった。


 「彩華先生」
 「…………あ、葵羽さん」


 そこには、先程舞を披露した時の豪華な正装のままの葵羽が立っていた。
 彩華はゆっくりと後ろを向くと、葵羽は少し驚いた顔を見せたあと、ゆっくりと笑ってこちらに歩いてきた。


 「………起こしてしまいましたね」
 「え………?」


 葵羽はそう言って、クスクスと笑っていた。
 彩華は彼が何を話しているのかわからず、首を傾げた。すると、「シーっ………」と人指差しを出して静かにするよう彩華に伝えると、葵羽はその指を秋華の肩まで伸ばした。
 彼の白くて細長い指が彩華の髪に触れた。すると、「ジジジッ」と、何か機械音のような振動する音が彩華の耳元で聞こえた。彩華は驚き体を動かす。すると、そこから1匹のトンボが逃げるように飛んでいってしまった。


 「あぁ、残念………」


 彼は何故が嬉しそうにしながら、そう言った。葵羽は彩華の肩に止まっていたトンボを捕まえようとしていたのだろう。やはり、こういう所は見た目によらず子どもっぽいなと思ってしまう。


 「トンボ………夜にいるなんて、珍しいですね。夜はどこに行ってしまうのかなって考えてたんです」
 「トンボは夜行性ではないので、寝ているのですよ。………叢などに止まっているんです」
 「叢………あ………」


 彩華は先程彼が言った言葉の意味をやっと理解出来た。
 彩華がこの場所に来てしまった事で、トンボが起きてしまい、彩華の肩に止まったのだろう。