すると、葵羽は正殿に向かって頭をゆっくりと下げた後、鈴を鳴らしながら綺麗に舞を披露し始めたのだ。
 赤く染まった空、そして整った顔と、不思議な銀色の髪の男性。金色の刺繍が入った衣の長い袖。それが舞によって、キラキラと動いている。神秘的な光景に、まるでこの世のものではないような雰囲気を感じ、見るものを魅了していた。
 収穫祭には関係者と数人の観客しかいなかったが、皆が葵羽の舞に釘付けになっていた。

 葵羽の無表情でも微笑みでもない、菩薩のような表情は、彼が神に仕えている物だと思わされるものだった。

 彩華はそんな彼を見つめながら、手を胸に当ててワンピースをギュッと握りしめた。
 胸が苦しい。鼓動がうるさい。体が熱い。
 それでも、彼を見る視線を逸らす事は出来ないのだ。


 あぁ……私は彼の事が好きだ。


 その瞬間から、彩華は自分の気持ちに蓋をする事など出来なくなった。
 葵羽への気持ちがあふれで止めることなど不可能だった。

 1年で彼と出会った日は少なかったかもしれない。けれど、彼の優しさに触れ、彼にどんどん惹かれていった。

 出会った秋の頃は、ただただかっこよくて、落ち着いた大人の人だなと思った。けれど、子どもと一緒に松ぼっくりを探す姿はどこか少年のように見えた。
 冬は、風邪をひいた彩華を見て心配してくれて、次に会った時はホッカイロをくれて「無理はダメですよ」と、労ってくれた。カイロの温かさが、とても優しく感じたの初めてだった。
 春は子ども達とお茶を飲みながら桜を見て「にぎやかなお花見はいいですね」と微笑んでくれた。子どもがお茶をこぼして、葵羽の袴を汚しても、彼はニコッと笑って「着替えをするとサボる理由が出来ました」と、冗談を言ってくれた。
 夏は、寄り道をした彩華に「一緒に涼みませんか?」と、冷たいラムネをくれ、木の下で2人でこっそりと飲んだ。


 そして、今は彼に会いたい。
 近くで笑っていたい。
 もっともっと彼を知りたい。

 そう思ってしまう。