その時あの黒縁メガネをかけた医師が処置室から出てきた。僕が搬送された時に主治医だった嶋田医師だ。軽く会釈をしたが、こちらには気が付いていないようだった。そのままエレベーターホールの方に歩いて行ってしまった。
毎日大勢の患者を診ているのだから、たった1日の入院だった僕のことなど覚えてもいないんだろう」
「嶋田先生疲れているみたいね」
鶴見さんが漏らすように言う。
「大変なお仕事ですからね」
「そうね、でも彼少し無理しているのよ」
「無理している?」
「ううん、なんでもないわ。それじゃ彼女にお大事にって伝えておいてください」
「はいわかりました」
「それじゃ」
そう言い残し、鶴見さんは僕の前から離れていった。

