――どうして高岡があたしに好きと言ってくれたのかまだよくわからないけれど、ほんの数分前、どうやらあたしたちは“彼氏彼女”になったらしい。

でも本当にいいのかな。
実際、高岡の周りはかわいい子ばかりで、それこそもったいないオバケが出そうな気がする。

そもそも高岡自身カッコいいから、選び放題のはずなのだ。
まぁあたしだって別にそこだけを好きになったわけじゃないけど……でも……。

そんなことを思いながら、照れを隠すように淡々とポッキーの箱を高岡の前に差し出す。

「残り1本、高岡食べて。そろそろ部活戻らなきゃ怒られるよ」

「んー、戻る前にポッキーゲームのリベンジしたい」

「はいっ?」

「ふたりで食べよ」

「ちょ、むっ」

次は高岡がくわえたポッキーをあたしの口元に当てられ、思わずくわえてしまった。

高岡のほうからカリッと軽やかなプレッツェルの音が響く。
さっきと同じ状況にやっぱりさっきと同じように心臓が飛び出しそうになるくらいドキドキが全身に響く。
もちろん、あたしからポッキーを食べることはなく、先のほうを少しくわえているだけだ。

そうこうしているうちに、どんどん高岡の顔が近くなっていく。
さっきよりも距離が近い。

……むりムリ無理!

あと3センチというところで、あたしは顔を反らし、ポッキーを折った。

「やった。俺の勝ち」

「むうい~」

嬉しそうな声色に向かって、ポッキーの欠片をくわえたまま口を尖らせて顔を戻すと、後頭部に手を添えられた。

「ご褒美ちょうだい」

この状況はなに、と思った瞬間、高岡がぶつかるようにキスをしてきた。
……いや、正確に言えば、高岡の唇はあたしの唇に触れることなく、ポッキーの欠片を口の中に少し押し込んだだけだった。

「くそ、ポッキーに邪魔された。初めてのチューはオアズケか」

「……!!」

「じゃあ、部活戻るわ。また夜連絡するなっ」

高岡は今のできごとさえも楽しそうに、あたしのプレゼントを手に飄々と部屋を出ていってしまった。

「……ず、ズルいい……」

あたしは両手で頬を覆い、うつむいた。

すべてが完全にあたしの負け。
ゲームなんて最初から意味はなかったのかもしれない。

どうやったら高岡に勝てるのかな? あたしに勝てるゲームはあるの?

そんなことを考えながら、確かにここにある幸せな気持ちと口に残されたポッキーを噛みしめ、あたしはポッキーの赤い箱をサブバッグの中に投げ入れた。