そして、照れ隠しの言葉を口にした。

「あたしが作ったエリマキトカゲたちと仲よくしてくれる?」

「嘘、俺よりエリマキトカゲの編みぐるみが上なの?」

「あたし手芸ないと生きてけないもん。編み編みしてるときと布に針をちくちく刺してるときが至福なの、知ってるでしょ?」

ちょっと物騒に聞こえるかもしれないけれど、本当のことだから仕方ない。

「あー、そういうことならもちろん。俺が美波を好きになったのって、楽しそうに編み物してる姿見てからだし。教室にいる美波って普段はさらっとしてクールだし、俺にもそのかわいい顔向けろよーって思ったのが始まりなんだよな」

「え、そうなの? 高岡ってちゃんと理由があってあたしのこと好きって言ってくれてたんだ……そうなんだ……」

「え、待って、どういう意味?」

「え? どういう意味って……高岡が普通すぎるあたしと付き合ってくれるなんて不思議だなって思ってたって話だけど」

この年になればわかってくるけれど、何もかもが完璧な人間なんているわけはなく、多少変わっているところがあるものだ。
だから、完璧に見える高岡が平々凡々なあたしと付き合ってくれるのも、そういうことなんだって思っていた。

自分は完璧だからこそ、相手には隙を求める、みたいな。

「ふーん。俺のことそんなふうに思ってたんだ。ちょっとムカついた」

「へ?」

「覚悟してろよ。これからたっぷりわからせてやるからな」

「えっと、高岡? なんか変だけど、大丈夫?」

「変じゃないし。もっかいチューしよ」

さっきよりも高岡の柔らかい唇を感じるキスに、あたしの心臓はまた運動会を始めてしまった。

鼓動の速さでリレーをすれば、高岡に勝てる自信あるのにな。
でも、実際は負けっぱなしで悔しい。

「俺、ほんと美波に負けてばっかだな。いつか勝ってやるからな」

いやいや、あたしのセリフ取らないでよ。

そんなことを思いながら、あたしは唯一自信のある鼓動のリレーで勝つべく、高岡の手をぎゅっと握った。



おわり。