慧莉は人の間をすり抜け彼から遠ざかろうとしていた。


何故か、自分の体が逃げたがっている。


「おいっ!待てよ!慧莉!」

後ろから呼ぶ声が聞こえる。

多くの視線を浴びつつ、そのまま人混みを抜け、駆ける。



が、男の体力と足の速さに勝てるわけもなく、ついに校舎の裏庭で腕を捕まれた。

「何で逃げるんだよ!」

「………。」
肩で呼吸をしながら、何も話さない。

―分からないもん。

「おいっ!」
黙り。

「何か言えよっ!」
無言。

「慧莉っ!」
沈黙。


―この人とは関わりないのに。


ふと、疑問が浮かぶ。

「山本君は何故、関わりのない私を追いかけるの?」


准弥が一瞬固まった。


「慧莉、俺が分からないのか?」

―単なるクラスメートとしてしか分からない。


沈黙で肯定であることを伝える。

「慧莉、どうしたんだ?本当に俺が分からないのか?だから少しも話しかけてくれなかったのか?」

―………?

「知ら…ない……。」
「慧莉っ!」

准弥が慧莉に抱きついた。

「離してっ!」

准弥を離そうとするが、やはり力が勝てない。


「本当にか?」
「私には中学からの記憶しかないの!」

准弥の力が緩んだ。

「慧莉………約束も忘れちまったのか?」
「約束?」

ふいに頭に激痛が走る。

「っ!」

そして一気に慧莉は崩れ落ちた。


准弥は慧莉を抱え、保健室へ向かう。


「慧莉………。」
悲しそうに准弥は呟く。
准弥の目から涙が流れ、慧莉の顔に落ちた。
「俺が守るって約束したのにな………。ごめんな………。」