「いくらお人好しな人でも、こんなの見たら逃げたくもなるよね……」
わたしがポツリと呟いた時だった。
「……逃げてないけど?」
「……!?」
誰もいないと思っていたのに急に聞こえてきた声にびっくりして、わたしは反射的に振り返った。
「…っ、は…!?き、桐谷…慎也……!?」
な、なんでっ…なんでこいつがここにいるのーー!?
「…ふーん。俺のこと嫌いなくせに、ちゃんと俺の名前知ってるんだ?」
いつの間にかわたしが入ってきたドアを背に立っているやつの顔は、普段仮面を被ったような爽やかさは欠片もなく、どこか怪しげな笑みを浮かべている。
そりゃ知ってるに決まってるでしょ……ってそうじゃなくって!



