「こんばんわ、子猫ちゃん」
いつの間に入ってきたのかわからないが、紅色の瞳をギラギラと光らせた男の人間(?)がすぐ傍にしゃがんでいた。驚きで尻尾の毛が逆立つ。
「…誰?…ですか?」
人間かと思ったけど、瞳や格好や全てが異様な雰囲気を醸し出している。
「僕はvampire(吸血鬼)さ」
「ばんぱいあ…?」
ばんぱいあって、人間たちが噂していた…血を吸うんだよね…?確か、吸血鬼?
「そうだよ、little cat?」
彼はしゃがみ、顔を近づけてくる。
近い…
「君のblood(血)、味見させていただきたい…っ」
「えっ…いたっ!!」
ニヤッと口角を上げた彼の鋭い爪が私の頬を切り、生暖かい感触とじんじんとした痛みが交わる。
「んん♡…予想通りの美味しさだ…」
彼は幸せそうに頬を緩ませる。
「いきなり、何するんですかっ…」
「すまないね、君の存在を知ってから味見したくてしたくて堪らなかったんだよ…」
もう一口…と言うように、また口を頬に近づけてくるが、バッと両手で塞いで阻止した。
「もうやめてください!」
「吸血を拒否するというのかい?」
「はい、拒否します!」
すると彼はフッと鼻笑いし、私の喉に鋭い爪をあて、お互いの鼻がつんっとつきそうな程顔を近くに寄せてきた。そして口角を上げる。
「この僕に、歯向かうなんていい度胸だね。素直に吸わせてくれればいいものを…。君の体を引き裂いて食べてしまってもいいんだけどね…?」
「…瞳、綺麗ですね」
「っ?!…」
「…」
私は間近にある彼の瞳に目を奪われた。透き通った紅色の瞳。月光で輝いている瞳は、まるで宝石のルビーのよう。
彼は顔を話し、手をおろした。
「ふふっ…君は怖がらないのかい?僕のこと」
「怖くないですから」
もう怖いって感情はお腹いっぱいで、何も感じなくなってしまっていた。