「緒斗羽姉、俺かここに来た趣旨、忘れてねぇよな?」
「あぁそうだった。よし、秒で終わらせよう」
「当たり前だ」
ベランダへと続く窓を開ける。雨粒が激しく体を叩いた。おい、普通の雨じゃないよ、これ。
「蓮翔、テレビの電源つけて」
「はいよ」
一旦中断して、テレビに意識を注ぐ。
「速報です。ただ今全国的に激しい雨が降っていて、警報が出てる地域が多く見られます。不要不急の外出を控えて…」
スマホをチラ見。警報出てるし。つまり、学校に行く必要はなくなった。
「蓮翔、10秒以内に部屋から出てって!」
「は!?洗濯物…」
「いいから!10、9…」
「ちょ!分かった!」
蓮翔が扉を閉めたと同時に、秒で制服を脱ぎ、上下おそろいのジャージを着る。
「入って来てよし」
「…緒斗羽姉、後ろ」
蓮翔が気まずそうにつぶやく。何?と振り向いた私もその場に固まる。
「蓮翔、5秒以内に雑巾…急ぎなさい!」
「お、おう!」
そこには、開けっ放しの窓。少し下に視線を逸らすと…悲惨な光景が広がっていた。
まぁなんとか片付け、一息…
「おい!洗濯物のこと忘れんなよ!」
つけなかった。
「あーあ、華那姉に怒られる…」
そんなことをぶつぶつつぶやきながら、素早く洗濯物を取り込む。ふと、外に目をやった。
「あれ?」
家の向かいにある公園で、雨に震えてる白い猫。
「やばいじゃん…」
洗濯物を取り込むスピードが2倍になる。
「蓮翔!これ、乾燥機にかけといて!それと、傘借りるから!」
「まさか、外出る気か?」
「そのまさかなの!」
蓮翔に、洗濯物を半ば強制的に持たせた、ごめん!急いで階段を駆け下りる。
「緒斗羽姉!不要不急の外出は控えろって…」
「急用だから」
口をぱくばくさせて玄関までついてきた蓮翔をふりきるようにドアを閉める。しつこいし、もう。
蓮翔の学校指定の黒色の傘をさし、公園へ走った。
…いた。そう思って近づくと、誰かと肩がぶつかった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
一瞬だけ目の前が白くなった。気がつくと、目の前には同じ高校の制服を着た男子が。
「あ、ごめんなさい!」
慌てて頭を下げる。
「いや、俺こそ前見てなくて…すっごい気まずいから頭上げてくれる?」
「あっはい!」
今度は慌てて頭を上げる。そこには、チョコみたいな…失礼。ミルクブラウンの髪をした低めの男子。
これが、私と彼の出会い。