片恋の魔女は死ねない

「……あれ」

 何かに違和感を持ったのか、わざわざ近づいてきて、先輩は私の顔を覗き込む。あまりの顔の近さに、ドキドキと心臓が落ち着かない。体も心なしか熱い。

 速くとまれよ、鼓動。
 この快感に囚われたらだめなんだよ。

「どうかしました?」

 先輩のもつ違和感の正体を知りながら、私は白々しく尋ねる。

「瞳の色が昨日と違うね」
「え、そうですか?」
「だって、昨日は綺麗な藤色してたよ」
「見間違いじゃないですか?」
「いや、確かに俺は見たよ。あんなこの世の物とは思えない藤色の瞳を忘れるわけじゃないか」

 そう、今の私の瞳は黒なのだ。瞳を黒く見せる魔法をかけているのだ。

 魔法がなければ、黒目が多い日本人の中で、藤色の瞳はかなり目立つ。
 それ以前に、昨日まで普通に黒い瞳だった私が、今日いきなり藤色になっていること自体、おかしいのだ。