「あははっ…乃愛ちゃんてば忘れんぼうだな」
「うー…ごめんなさい、凉くん…」

張り切ってチョコを作った事。
そのチョコを忘れてきた事。
一番に凉くんに渡したかった事。

全部を涙目になりながら話し終えた乃愛を、凉くんは笑って許してくれた。

「乃愛ちゃん、今日も僕に送らせてね。その時にチョコも貰えたら嬉しいかな」
「うん!もちろんだよ…ごめんね、凉くん」
「もう、何回も謝らないの」
「だって…バレンタインにチョコを忘れてくるなんて…彼女失格だよ…」
「乃愛ちゃんは僕の立派な彼女です…ほら、落ち込まないで?」

そう言って乃愛の頭を撫でる凉くん。

「凉くん優しいっ…好きぃ…!」
「あはは…僕も好きだよー、乃愛ちゃん」

廊下の真ん中でぎゅーと凉くんに抱きつく。

凉くんは嫌がるそぶりも見せずに抱き締め返してくれた。

何か、チョコの他に凉くんにしてあげられる事はないのかな…。

乃愛は考える。

そして、ある有名な歌を思い出した。


「凉くん!」
「ん、なに乃愛ちゃ―――!?」


ちゅ。


凉くんの唇に、乃愛の唇が重なる。

「…えへへ…チョコの代わりに…なる?」

ふにゃりと笑えば、凉くんが真っ赤なお顔で乃愛を抱き締めた。

「もー…僕の心臓、もたないって…」
「凉くんお顔真っ赤だ…」
「見ないで、乃愛ちゃん…僕、今スゴくカッコつかない顔してるから…」
「えー、見たいなぁ」
「だーめーでーすー!」

乃愛を胸に抱き締めながら、凉くんが言った。

今年のバレンタインも、大好きな凉くんと甘い時間を過ごせて良かった…。



チョコを忘れたショックは、もう忘れてしまっていた。