バレンタインは、乃愛にとって戦争だ。

誰よりも早く、恋人である凉くんにチョコを渡す…それが今日のミッション。
最優先事項。

「できた!」

ナッツとオレンジピール入りのチョコブラウニー。

凉くんが去年、美味しいって言ってくれた物を今年も作ってみた。

凉くん、喜んでくれるかなぁ?

透明の袋とピンクのリボンで綺麗にラッピングして、小さな紙袋に入れる。

「あ、そろそろ行かなきゃ…」

乃愛は急いで家を出た。


「凉くん!おはよ!」
「乃愛ちゃん、おはよう」

学校に向かう途中、凉くんの後ろ姿を見つけて声をかける。

乃愛は早速、作ってきたチョコブラウニーを渡そうと鞄から紙袋を―――出そうとして、ある事に気づいた。


え…、ない…?

鞄には、ブラウニーを入れた紙袋がなかった。

―――そうだ!

紙袋に入れた時、その紙袋を鞄に入れるのを忘れたんだ…。

「?乃愛ちゃん、どうしたの?」
「あ…あはは、なんでもないよ!」
「そう?」

首をかしげる凉くん。
…どうしよう。
もう学校は目と鼻の先だった。