巾着袋から二段重ねのお弁当箱を取り出し、フタを開ける。

「わぁ…スゴいね麻奈」
「張り切って作っちゃった!」
「うん、美味しそう」

上の段はオカズ。
卵焼きとほうれん草のゴマ和えにミニハンバーグ…あとタコさんウインナー。
下の段はもち麦プチプチご飯を詰めている。

朝5時から起きて作ったお弁当…。
れー君の口に合えばいいな…。

「食べてもいい?」
「うん、どうぞ」
「じゃあいただきます…」

れー君が卵焼きに箸を伸ばす。
それは私が一番張り切って作ったオカズだった。
だって卵料理はれー君の大好物だから。

れー君が卵焼きを口に入れる…。
私はドキドキしながられー君の感想を待った。
れー君が味わうように卵焼きをそしゃくしていく…。

「うん、美味しいよ」
「ほ、本当…?本当に美味しい?」
「あはは、本当に美味しいってば」
「よ、良かったぁ…」

私はホッと胸を撫で下ろす。
安心したらお腹が空いてきた。
私ももう一つのお弁当箱を取り出し、フタを開けて箸を卵焼きに伸ばした。

口に入れてそしゃくして―――……ん?


……………。


この卵焼き…甘い…?

私は先程とは違う意味で固まった。
私が今日作ったのは、ほんのり塩味の卵焼きの筈だ……でもこの卵焼きは……甘い。

……え、いや、でも…まさか。


もしかしなくても…塩と砂糖を間違えてる…?

その瞬間、私は他のオカズにも塩を使っていることを思い出す―――。

いや、塩だと思ってかけていたのは砂糖だ。

と、なると……。

「れ、れー君待って!食べちゃダメ!」
「―――ん?」
「あっ……!」

れー君はもうオカズの半分を食べてしまっていた。
私は泣きそうになる。

「ご、ごめんねれー君…ハンバーグもゴマ和えもウインナーも甘かったでしょ……」

―――そう、その全ての調理に私は塩でなく、砂糖を振りかけていたから。

ご飯以外、ほぼデザートだった筈だ…。

だけどれー君はニコリと笑う。

「そう?確かにちょっと甘いけど…俺は美味しいと思うなぁ」
「…え?」
「だって麻奈が頑張って作ってくれたお弁当だよ?…美味しいし、スゴく嬉しいよ」

そう言ってポンポンと頭を撫でてくれるれー君…こんな優しい彼氏がいて、私はなんて幸せ者なんだろう。

思わず目から涙がこぼれた。
泣きながられー君の腕に抱きつく。

「…ご、ごめんねぇ…!こ…今度は、ちゃんと作るからねぇ…!」
「こら、泣かない。…楽しみにしてるね」


泣き止まない私のおでこに、れー君はそっとキスを落とした。