秋には色々あるけれど、アタシ…宇野 陽菜子《ウノ ヒナコ》の彼氏は読書の秋らしい。
昼を食べ終えたら、さっさと図書室にこもってしまった彼氏に声をかける。

「なぁ、なに読んでるんだ?」
「お前が絶対 読めない本」

視線もよこさずアタシの彼氏…三月 光《ミツキ ヒカル》が素っ気なく呟いた。

光の肩越しに光の読んでいた本を盗み見る。

「…げ、全部 英文じゃんか」

確かに全く読めない…。

「だから言っただろ。その幼稚な頭がオーバーヒートする前に早く教室に戻れ」
「アタシだって本くらい読めるんだぞ!」
「漫画は入れるなよ」

その言葉にアタシは黙りこむ。
…漫画だって立派な本じゃねーかよ…!

「…よーし、見てろよ光!難しいの探して読んでやるからな!」
「せいぜい頑張れ」

アタシはこめかみに青筋をたてながら、ずんずんと図書室の奥へ向かった。

ここら辺には分厚い本が揃ってる。

「…お、ああいうのとか良いんじゃね?」

上段の方に一際分厚い本を見つけた。
…辞書っぽいけど、これも本だろ。

アタシは背伸びをしてその本を取ろうと…。

「―――あっ」

指が本に届いた時、手元がくるって辞書がアタシの頭の上に落ちてくる―――!

「っ!…」

痛みと衝撃を覚悟して、目を瞑る。

が、痛みも、衝撃もやってこない……。

不思議に思い、目を開けると…。


「光…?」
「なにしてんだ、馬鹿」

光が、辞書を片手で軽々 持っていた。

「な、何でここにいるんだよ…本読んでたんじゃないの?」
「お前の考える事だから、難しい本 = 重い本を選ぶと思った…で、チビなお前の事だから無理してそれ取ろうとしてこうなると思った」

簡単な予測だとため息混じりに光が呟いた。

イラつくけど…なんかヒーローみたいでカッコいいじゃんか。

つまりはアタシの事、心配してきてくれたって事だろ?

…なんだか顔がにやける。

「サンキュな、光」
「ふん…」

行くぞ、と光がアタシの腕を掴む。

「は?どこへ?」
「…本、俺が読んでやる」
「へ?」