午後11時を回る頃、男は学習塾の前でターゲットを待っていた。
疲れた様子の学生たちに混じってケロッとした様子で出てきた青年に声をかけた。

「久しぶり、俺のこと覚えてるかな?」

青年は彼の姿を認めると、記憶を探った。
深くかぶった帽子、背丈は自分と同じくらい。どことなく無邪気な声の調子。
外見も数年前にあった時と全く変わっていなかった。

「お久しぶりです。以前はありがとうございました。」

「俺はただ準備をしただけで行動したのはお前だよ。で、そのあとはどうなったの?」

「いただいたアドバイス通りにしたらいじめもすっかり消えましたよ。本当にありがとうございます」

いや、そっちの話じゃなくてこれだよこれ」
男は右手の小指だけを伸ばして青年に合図するが、青年は首を傾げたままだ

「彼女って意味だよ。全く…勉強だけできるようになりやがって」

「あ~そっちの話ですか。えぇ~っと」

青年は少し困ったように、だが誇らしげに答えた。